明和徒然日記
第2回 避けきれない(よけきれない)
世の愛煙家には申し訳ないが私はタバコが大の苦手である。
いや苦手と言うよりタバコに含まれる有害物質に対する耐性が無いのだ。
元々、タバコの副流煙は言うまでもなく目に見えない喫煙者の呼気や衣服についたサードハンドスモーク(むしろこちらの方がキツいかも)でさえも唇の裏側や舌がヒリヒリ傷み、麻痺したような感じになって閉口していたのだが、コロナの後遺症で気管支の病気を患ってからは、大げさではなく胸が重苦しくなる。
だから街なかでも極力喫煙所には近づかないし、道の向こうから歩いて来る人が火のついたタバコを持っている場合は急いで引き返して遠回りをするか息を止めて一瞬ですれ違えるように小走りでやり過ごしたりしている。
タバコ好きの方にはなかなか理解していただけないだろうが、私のような体質の人間もいることを分かっていただきたい。
ところが今朝、通勤途中に大通りから一本入った裏道を歩いていると、突然、横の路地から自転車に乗った老人が飛び出してきた。
反射的に口元を見ると火のついたタバコを咥えている。
「あっ!」と思って慌てて立ち止まったが、その老人は当たり前のように私の目の前で白い煙を吐きながら悠々と自転車で走り去って行った。
一方、私はというと一瞬の出来事のため避けきれずに老人の残していったタバコの煙を大量に吸い込む羽目になってしまった。
思わずその場にしゃがみ込んでしまいそうになったが、何とか気を取り直して急いで出社して、何度もうがいをしたものの口の中がヒリヒリ痛む感じと胸が重苦しい感じが2時間ほど続いた。
残念ながら世の中には「避けきれない」事例はたくさんある。
トーストを咥えて走る遅刻ギリギリの女子高生が街角でイケメン君にぶつかって恋が芽生えるお決まりパターンの少女漫画ならいいが、交差点での自動車同士の衝突事故は絶えないし、先日は羽田空港の滑走路上で旅客機と海上保安庁の飛行機が衝突するという信じられないような大事故すら発生している。
同様に船でも避けきれない事例はある。
「海はあんなに広いのになぜ?」と思われるかもしれないが、海域によっては船が航行できる航路は決められており、そこに多くの船が集中するので必然的に船が密集した状態が生じる。
実際、東京湾や備讃瀬戸などでは常に大小さまざまな船が輻輳している。
しかも当社のケミカルタンカーのように可燃性液体を大量に積んだ船が他の船や橋梁などの設備に衝突すると大惨事になってしまう。
だから船の操舵室では乗組員が常に感覚を研ぎ澄まし、目視やレーダーで周囲に十分に注意を払いながら運航業務に従事している。
私達のケミカルタンカーでは「避けきれない」は決して許されないのである。
写真:操舵室のレーダー及びGPS装置の画面(明芳丸)
(筆者:営業部 佐藤兼好)