石油化学製品のイロハ

第3回分解ガソリン(ガソリンを分解??)

石油化学製品は、もともとは石油や天然ガスから幾重もの生産工程を経て、自動車の部品や、衣服の生地、薬品やお惣菜のトレーなど私たちの生活に必要な最終製品へと姿を変えていきます。
このシリーズではそのような石油化学製品について、コテコテの文系頭の筆者が難しい化学式や計算式などは省いて、分かる範囲で少しだけご紹介していきます。

自動車燃料のガソリンと同じガソリンという名前がついているため紛らわしいのですが、決して自動車のガソリンをバラバラにしたものという意味ではありません。
第2回で「石油化学製品のご先祖様」であるナフサを高熱で分解精製するとエチレン、プロピレンなど5種類の基礎製品が得られるとご説明しましたが、その中の一つが分解油であり、これの別名を分解ガソリンと言います。
なお、当社では通常は分解油というよりも、この「分解ガソリン」の名称の方を用いています。

残念ながら、この分解ガソリンから私たちの生活に身近な製品が直接作り出されているわけではないため、分解ガソリンが一体どのように私たちの生活に役立っているのかなかなかイメージが掴みづらいと思います。
しかし、実はこの分解ガソリンは石油化学工業にとっては、なくてはならない大変重要な製品なのです。

分解ガソリンは芳香族炭化水素を多く含んでいるため、この分解ガソリンはベンゼン、キシレン、トルエンなどの芳香族石油化学製品を抽出する原料としての重要な役割を担っています。
例えば、前回ご紹介したエチレングリコールと混ぜてポリエステル繊維をつくるパラキシレンもこの芳香族石油化学中間製品であるキシレンの仲間の一つです。

そして、実はこのベンゼン、トルエン、キシレンの3種類の芳香族の石油化学製品と分解ガソリンを合わせた輸送量は日本国内で一年間にケミカルタンカーで輸送されている何十種類もある石油化学製品全体の実に3割もの輸送量を占めています。
(注)2017年ケミカル船全輸送実績 約1,650万トン中約494万トン。 

ちなみに芳香族というのは独特の匂いがするという理由からこのような名称がつけられたそうで、分解ガソリンには更に「アロマティックガソリン」という何となく甘い花の香りが漂って来そうな美しい別名も付けられています。
しかし、実際に分解ガソリンの匂いを嗅ぐと、花の香りとはほど遠い、ひいき目に言っても、とても良い香りとは言えない独特な強い油臭がします。
(メーカーの皆様、申し訳ありません)

  • アロマ

    画像:筆者はアロマと言えば、何となくこんなイメージを持っていたのです が・・・
    (注)上記画像と分解ガソリンには何の関係もありません

また、頻繁に入出荷をしていないタンクから分解ガソリンを出荷する際や、液面がタンクの低いレベルになっている状態、つまりタンク内で残量が少なくなっている状態で分解ガソリンを出荷する際には大量のスラッジ(沈殿物)が含まれていることがあります。
そのような場合には船のタンクにスラッジが入り込むのを防ぐために、網状のストレーナーを挟んで搭載するのですが、その網がスラッジによってすぐに目詰まりを起こしてしまい(酷いときには4~5分おき)、何度も何度も荷役設備であるローディングアームを脱着してストレーナーを交換しなくてはならないことがあります。
その結果、通常であれば1,000トンを搭載するのに4~5時間で作業が終了するところ、夜中まで作業しても終わらないため、荷役作業を翌日に持ち越して2日がかりで荷役をすることもあります。
(船員の皆様、陸上係員の皆様、お疲れ様です!)

自動車燃料のガソリンとは全く違う役割を担っている分解ガソリンは、美しい別名と、それに不似合いな独特な強い匂いと大量のスラッジを持つ、縁の下の力持ち的存在の石油化学製品なのです。

  • ストレーナーに目詰まりをおこした分解ガソリンのスラッジ

    ストレーナーに目詰まりをおこした分解ガソリンのスラッジ