明和徒然日記

第15回 消えて無くなりません

春が近づいてくると通勤や休日などで外を歩くのも億劫ではなくなる。
しかし、そんな軽やかな気分も台無しにしてしまう、見かけると腹立たしいというか情けないというか、なんとも不愉快な気持ちにさせられるものがある。
それは、飲みかけのペットボトル、食べ終わったコンビニ弁当の容器、ビールの空き缶、タバコの吸い殻、使用済みのマスク、壊れたビニール傘など数え上げればきりがないほどの多種多様のゴミが、駅前、公園、歩道、道路の中央分離帯など至るところに捨てられて散らかっている光景の事だ。
勿論、ゴミ自体に罪はない。
それぞれの用途で生産され、役目を果たしたものばかりである。
それを用済みだからと所かまわずポイポイ捨てる人間が悪いのだ。
購入した店や駅などのゴミ箱に捨てるか、ポケットやカバンに入れて自宅まで持ち帰れば済む事なのにお構いなしにその場に捨てていく人の何と多い事か。
ゴミが魔法のように勝手に消えて無くなるとでも思っているのだろうか。

「日本はとても清潔だ。」と日本を訪れる外国人観光客は言う。
確かに世界的に見ればまだマシな方かもしれない。
ゴミが落ちていなければ掃除を生業にしている人の仕事が無くなって困るだろうなどと平気で街にゴミを捨てる人が多い国もあるらしいが、それにしてもだ。

日本の学校教育で素晴らしいのは、「そうじ」の時間があることだと私は思う。
自分たちで教室や廊下を掃除するからこそ、その有難さや大変さが分かるのだ。
ゴミを平気で捨てる事ができる人はきっと掃除の時間もサボっていたのだろう。

船からもゴミは出る。
船員にとって船は仕事場であると同時に生活の場でもあるので当然の事である。
しかし海洋汚染防止法では、「自然に帰る食物ゴミは海上投棄可能だが投棄前に細かく粉砕しなくてはならない。」「プラスティック等の不燃ごみは自然に分解しないので陸上回収しなければならない。」と厳格に定められている。
また、当社のようなケミカルタンカーは大量の液体石油化学製品を運んでいるのに、その原液を少しでも海に漏らすと大問題になる。
油は水に溶けないし、石油化学製品は人体や海洋生物に有害な物が殆どである。
「少しぐらいならいいだろう。」は通用しない厳しい世界なのだ。

海の環境を守ることは地球環境を守ること、ひいては自分自身を守る事。
陸上だって同じこと。
自分たちの身近な街の事となればなおさらである。
残念ながら、そんなことポイ捨てする人たちには全くの他人事なのだろう。
だからこそ、せめて今回の明和徒然日記を読んで下さった方々には私と同じ思いをお持ちいただければ有難いと切に願っている。

筆者 佐藤兼好

歩道に捨てられたゴミ(東京都港区芝公園付近)

歩道に捨てられたゴミ(東京都港区芝公園付近)